弁護士法人 Si-Law

西田ブログ

強く願う

松下幸之助は、経営にも資金や設備あるいは在庫といった様々な面にダムがあれば余裕のある経営ができるという「ダム経営」を唱えました。

ある講演会に招かれたとき、ある経営者が松下幸之助にこう質問をしました。「松下さんの言うように余裕があればそれにこしたことはないが、その余裕がないから困っているのだ。どうしたら余裕ができるのか教えていただきたい。」

松下幸之助は答えました。「簡単には答えられませんが、やはり、まずダム経営をやろうと思うことでしょうな。」この答えに聴衆からは拍子抜けした笑いすらもれました。

 

しかし、その講演会に出席していた稲盛和夫は、感動と衝撃を受けたそうです。

当時の京セラは、創業後間もなく、稲盛和夫は経営に大きな悩みを抱えていたところでした。

稲盛和夫の人生は決して順風満帆ではありません。「自分は実は極めて臆病で、人生は挫折の連続でした。私の場合、この臆病と挫折とが肥やしになったと思います。」と述べ、病気でさえも魂の成長のために自分の意思が引き寄せていると信じて、不屈の信念で経営を続けました。

松下幸之助の言葉を聞いた稲盛和夫は経営を見直し、その後の京セラは驚異的な成長を遂げることになります。

 

「それをなし遂げるために最も大切なことは、まずそのことを強く願うというか、心に期することだと思うのです。なんとしてもこれを成し遂げたい、成し遂げなければならないという強い思い、願いがあれば、事はもう半ばなったといってもいい。」

事を成し遂げるためには、松下幸之助の言葉を単なる精神論と考えるのではなく、実践することが必要だと思うのです。

 

言葉の力

力のある言葉と力のない言葉があります。

人に何かを伝え、人を動かす力がある言葉と、力のない言葉があります。

同じ内容を言っているのに、言葉が相手に伝わる人と伝わらない人がいます。

綺麗な言葉で流暢に話をする人もいれば、舌足らずで間の取り方も決して上手とはいえない話し方の人もいます。

しかし、綺麗でなくとも流暢でなくとも心に届く言葉があります。

何が違うのでしょうか。

 

いろんな要素があるのだと思うのですが、人に何かを伝えるためには、話す人が伝えたいことに関して、100%の揺らがない確信を持っていることが必要だと思うのです。

お金も物も人もない企業家の武器は、絶対に達成して成功してみせるという志しかありません。そんな何もない頃の企業家が成功するためには、協力してほしい周りの人に想いを伝えるしかありません。

お金も物も人もない企業家の志に揺らぎがあれば、誰もついて来ることはないでしょう。

 

また、どれだけ熱い想いで話をしたとしても、話をする相手の求めているコト、知識、経験に合わせなければ熱意も空回りするだけ。言葉は相手の器までしか伝わりません。

伝えるためには相手のために話すという姿勢が必要でしょう。相手のことに焦点を当てず、「うまく話したい」「よく思われたい」などと、自分自身のことを考えると緊張に繋がります。相手の願望に焦点を絞って、自分の経験をもとに飾らない等身大の自分を表現することが、聴き手の心を捉えるのだと思います。

 

社員の育成においても言葉は重要です。人を生かす言葉もあれば、人を殺す言葉もあります。社員の失敗に対して、怒りに任せて頭ごなしに、社員の自己概念が下がってしまうような辛辣な言葉を投げてしまうことは避けなければなりません。感謝と愛がなければ社員は育たないと思うのです。

仕事でも家庭でも恋愛でも、良好な人間関係を構築する際の言葉の伝え方は、同じではないでしょうか。

 

人の本質は変わりません。ひょっとすると人を動かすものは言葉ではなく、「命をかけてでも伝えたいことがある」という強く熱い想いなのかもしれません。

 

ストックデールの逆説

ベトナム戦争の最盛期、「ハノイ・ヒルトン」と呼ばれた捕虜収容所で、最高位のアメリカ軍人だったジム・ストックデール将軍は、8年間の捕虜生活で20回以上に渡って拷問を受け、捕虜の権利を認められず、いつ釈放されるか見込みがたたず、生き残って家族に再会できるかすら分からない状況を生き抜いた。
ストックデール将軍はそんな過酷な状況の中で、できる限り多数の捕虜が生き残れる状況を作り出すとともに、捕虜を宣伝に使おうとする敵の意図を挫くために全力を尽くした。

例えば、剃刀で切って顔を傷つけ「厚遇されている捕虜」としてテレビ撮影されないようにしたり、見つかれば殺される可能性も覚悟して妻との手紙で秘密情報を交換したり、モールス信号のような暗号で捕虜同士の精巧な連絡手段を作り上げ、収容所側が狙いとする孤立感を和らげた。

ストックデール将軍は、釈放されて帰国した後、「収容所に放り込まれ、結末がどうなるかも分からないなかで、どのように苦境に対処したのか」という質問に対して、こう答えた。「私は結末について確信を失うことはなかった。ここから出られるだけでなく、最後には必ず勝利を収めて、この経験を人生の決定的な出来事にし、あれほど貴重な体験はなかったと言えるようにすると。」

また、「耐えられなかったのは、どういう人ですか」という質問に対しては、こう答えた。「楽観主義者だ。クリスマスまでには出られると考える人たちだ。クリスマスが近づき、終わる。そうすると復活祭までには出られると考える。そして復活祭が近づき、終わる。次は感謝祭、そして次はまたクリスマス。そうやって失望が重なって死んでいく。これは極めて重要な教訓だ。最後には必ず勝つという確信、これを失ってはいけない。だがこの確信と、それがどんなものであれ、自分の置かれている現実のなかで最も厳しい事実を直視する規律とを混同してはいけない。」

このストックデール将軍の、一見すると逆説的な姿勢は、自分自身の人生であれ、他人を率いる点であれ、世界的に偉大な企業を築き上げた経営者全員の特徴になっているそうです。企業が置かれている状況がどれほど厳しくても、自社がどれほど凡庸であっても、生き残るだけではなく、偉大な企業になるという確信が揺らぐことがない。しかし同時に、自分が置かれている現実のなかで最も厳しい事実を直視する姿勢を崩さない。一方向だけに偏ることのない二重性を身に付け、正しい決定を次々に下していく。

偉大な企業になるという確信は志であり、志なくして真の成功はあり得ません。一方、志だけで厳しい事実を直視しなければ、企業が成長し続ける戦略構築はできません。日々の経営の中で、ストックデール将軍の姿勢から学び、考えさせられることは多いのではないでしょうか。

 

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