弁護士法人 Si-Law

西田ブログ

人間尊重の道場

小説「海賊と呼ばれた男」のモデルとなっている出光興産の創業者「出光佐三」は、新入社員入社式でこのような言葉を残しています。
「出光は事業会社でありますが、組織や規則等に制約されて、人が働かされているたぐいの大会社とは違っているのであります。出光は創業以来『人間尊重』を社是として、お互いが錬磨して来た道場であります。諸君はこの人間尊重という一つの道場に入ったのであります。」

出光佐三が説くところは、いつも形而上的な観念論で、金を儲けるための商売のコツなどの実利的な側面は全くなかったそうです。にもかかわらず、事業経営の上でも稀に見る大きな成功を収めています。その秘密は、「会社は人間尊重の道場である」などの出光佐三の言葉一つ一つに隠されていると思うのです。

のちに出光興産の相談役になった石田正貫は、出光佐三との思い出を以下のように語ったそうです。
「この人は、私とは40年を超える長い付き合いであった。にもかかわらず、私にはただの一度も『金を儲けよ』とは言われなかった。」

出光佐三は、「金を儲けよ」とは言わずに「人間を尊重せよ」「人を愛せよ」と言いました。そのような考えを表す言葉としてこのような言葉を残しています。
「人を育てる根本は愛である。愛とはいかなる場合にも、自分を無私にして、相手の立場を考えるということである。われわれ出光はこの愛を口先だけでなく、ひたすら不言実行してきたがために、今日の人を中心とした出光の形が出来上がった。」

出光佐三は、「入社した社員は子供が生まれたという気持ちになって、これを愛の手を伸ばして育てることになっている」と語っています。すなわち、新入社員は新しい子供だと思い、育てるそうです。
会社は、人間成長の道場であり学校です。経営者は、そのような覚悟をもって経営をすべきだと思うのです。

WHYから始めよ

ゴールデン・サークルは円の中心から始まる。すべてがなぜ(WHY)から始まる。

 

WHAT:企業や組織は、自分のしていこと(WHAT)=自社が扱っている製品やサービスのこと、なら分かっており説明できる。

HOW:自分がしていることの手法(HOW)=「価値観に差異をもたせる」「独自の工程」「ユニークな販売計画」など他社とは違う方法、を知っている企業や組織もいる。

WHY:自分がしていることを、している理由(WHY)を明言できる企業や組織は少ない。WHYには「お金を稼ぐため」という理由は含まれない。それは結果にすぎない。なぜ、あなたの会社は存在しているのか?なぜあなたは毎朝ベッドから這い出し出勤しているのか?私たちは、自分のしていること(WHAT)は説明できる。時には手法(HOW)も説明できる。ところがそうしている理由(WHY)を説明することは滅多にない。

 

例えば、コンピューターメーカーがWHATから始めて考えたマーケティングメッセージはこんな感じになるかもしれない。

「われわれは、すばらしいコンピュータを作っています。

美しいデザイン、シンプルな操作法、取扱いも簡単。一台、いかがです?」

 

傑出したリーダーや組織は、このようなメッセージではなく、円の内側(WHY)から外側(WHAT)への順で考え、行動し、コミュニケーションを図っている。

革新的な世界企業であるアップルが、WHYから発するマーケティングメッセージは以下のようになるだろう。

「現状に挑戦し、他社とは違う考え方をする。それが私たちの信条です。

製品を美しくデザインし、操作法をシンプルにし、取扱いを簡単にすることで、私たちは現状に挑戦しています。

その結果、すばらしいコンピュータが誕生しました。一台、いかがです?」

 

上記は「WHYから始めよ!」(サイモン・シネック著、栗木さつき訳)から引用しました。

メッセージにごまかしや、無料のおまけがある訳ではありませんが、2番目のメッセージの方がコンピュータを買いたくなるのではないでしょうか。

お客様は企業がしていること(WHAT)を買うのではなく、企業がそれをしている理由(WHY)を買う。そのように考えることができるかもしれません。

自社がなぜ存在しているのか?我々はなぜ働いているのか?

それを腹に落として明確に伝えることが企業には必要だと思うのです。

 

経営のスピード

松下電器のある事業部がうまくいかず、事業部長が交代して立て直しを図ることになり、新任の事業部長が、松下幸之助のもとに挨拶に訪れて言いました

「いろいろ実態を調べましたが、これは必ずよくなります。だから半年間は黙ってみてください。必ず良くします。」

 

これに対して松下幸之助は笑顔でこう答えたそうです。

「そうか、半年どころか1年でもなんぼでも待つで。わしは1年でも2年でも待つけどね、しかし世間が待ってくれるかどうかは知らんで。」

 

会社を良くするためには改善を積み重ねなければなりません。しかし、改善しようという気持ちがあるにせよ、ついつい目標達成の期日を内部の事情で考えてはいないでしょうか。

 

松下幸之助が真に求めていたのは、自分たちがしている程度の努力は、他の会社でもしているに違いないと緊張感を保ち、世間が待ち望んでいる商品をどこの会社よりも早く、全力で開発するのだという固い決意だったのかもしれません。

 

時代は違えども、戦国の雄である織田信長も、何よりもスピードを重視していました。天下布武を目指して、周囲の敵対する戦国大名の誰よりも早く次々と手を打ち、多くの負け戦もしながら、負け戦と見るや神速ともいえる行動で撤退を決めて生き抜いていきました。

 

凄まじいスピードで変化する現代においては特に、たとえ1ヶ月でも、1週間、1日、1時間でも早く目標が達成できるよう全力を尽くす。そして目標を実現したら、さらにより高い目標を設定する。人よりも先んずる経営を実現するには、何よりもスピードを大切にし、改革、改善を続ける姿勢が必要なのだと思います。

 

松下幸之助は次の言葉も残しています。

「時間をかけなければよい仕事ができないとか、素晴らしい発明が生まれないという考えにとらわれるのは危険である。

われわれはスピードの時代であるということをもっと自覚して、今日考えたことはその日に実行してしまうこと、思い付いたことはすぐ実行し実現するという考え方で仕事を運んでいかねばならない。」

 

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