認知症だった親の遺言は無効にできる?争い方と証拠を八代の弁護士が解説
2026/09/13 10:13|カテゴリー:相続
こんにちは。弁護士法人Si-Lawです。相続のご相談で近年とくに増えているのが、「認知症だった父の遺言が出てきたが、内容に納得できない」というご相談です。認知症 遺言 無効という言葉で調べてこられる方も多いのですが、実際には「認知症だったから無効」と単純に決まるものではありません。今回は、遺言の効力を争う場合に裁判所が何を見ているのか、そしてどのような資料を集めておくべきかを、実務の流れに沿って整理します。

認知症の診断があっても、それだけでは無効になりません
遺言が有効であるためには、遺言をしたときに「遺言能力」(民法963条)があったことが必要です。遺言能力とは、自分が残そうとしている財産の内容と、それを誰にどう渡すとどういう結果になるかを理解できる程度の判断能力をいいます。
ここで誤解されやすいのが、認知症の診断名がついていれば自動的に無効になる、という点です。認知症には軽度から重度まで幅があり、時間帯によって状態が変動することもあります。そのため裁判所は、診断名そのものではなく、遺言書を作成したまさにその時点で、その内容を理解できる状態だったかを個別に判断します。逆にいえば、診断を受けていなくても、当時の状態によっては遺言能力が否定されることもあります。

裁判所が重視している判断材料
遺言能力が争われた事案では、おおむね次のような点が総合的に検討されています。
第一に、医学的な状態です。診断名、認知症の進行度、長谷川式簡易知能評価スケールやMMSEといった検査の点数、要介護度などが手がかりになります。第二に、遺言の内容の複雑さです。「全財産を長男に相続させる」という一文であれば理解しやすい一方、複数の不動産を細かく割り付け、予備的な条項まで置いた遺言は、相応の判断能力がなければ作れません。同じ状態でも、内容が複雑なほど遺言能力は否定されやすくなります。
第三に、作成の経緯です。誰が公証役場の手配をしたのか、遺言者本人が積極的に動いていたのか、特定の相続人が付き添って進めたのかといった事情は、判断能力だけでなく、他人の意思が入り込んでいないかという点にも関わります。第四に、従前の言動との一貫性です。生前から同じ意向を繰り返し述べていたのであれば有効方向に働き、それまでの意向と正反対の内容が突然現れた場合には疑問が生じます。
公正証書遺言でも争えます
「公証人が関わっているのだから覆せないのでは」と尋ねられることがあります。たしかに公正証書遺言は方式面の信用性が高く、自筆証書遺言に比べて無効の主張は通りにくい傾向があります。しかし公証人は医師ではなく、面前でのやりとりから判断しているにとどまります。実際に、公正証書遺言について遺言能力が否定された裁判例もあります。
その際に手がかりとなるのが、公証役場に残る記録です。公証人が本人にどのような質問をし、本人がどう答えたのか。ほとんど「はい」と答えるだけだったのか、自分の言葉で財産の内容を説明できていたのか。ここに大きな差が出ます。
集めるべき資料と、その取り寄せ方
争う側にとって要になるのは、遺言作成日に近い時期の客観的な記録です。具体的には、病院のカルテ・看護記録、介護施設の介護日誌、要介護認定の認定調査票や主治医意見書、デイサービスの記録などが挙げられます。とくに認定調査票と主治医意見書は、日常生活の様子が具体的に書かれているため有力な資料になります。市町村の介護保険担当課に対し、相続人の立場で開示を求めることが考えられます。
カルテについては、任意の開示に応じてもらえない場合、証拠保全という裁判所の手続を用いることがあります。医療機関に予告せず裁判所が記録を確認・保全する手続で、記録が失われる前に押さえておきたい場合に検討します。注意していただきたいのは、これらの記録には保存期間があるという点です。時間が経つほど廃棄の可能性が高まりますので、疑問を持った段階で早めに動くことをお勧めします。
手続の進み方と、費用のこと
遺言の効力に争いがある場合、いきなり遺産分割調停を申し立てても、前提問題である遺言の有効・無効が決まらなければ話が進みません。そのため実務では、まず資料を収集して見通しを立て、相続人間の協議で折り合えるかを探り、まとまらなければ遺言無効確認訴訟を提起する、という順序をとることが一般的です。訴訟になると、カルテの精査や関係者の証人尋問が必要になり、解決までに1年以上かかることも珍しくありません。
なお、遺言が有効だとしても、あきらめる必要はありません。兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があり、遺留分侵害額請求によって一定額の金銭を求めることができます。ただしこの請求には、相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知ったときから1年という期間制限がありますので、遺言の有効性を争いながら、期間を守るための手当てを並行して行う必要があります。
また、相続税の申告・税額計算は連携税理士が対応し、当事務所は遺産分割・遺留分など法律問題を担当します。
これから遺言を残す方へ
ご自身の遺言が将来争われないようにしたい、という観点も大切です。作成日に近い時期の診断書を残しておく、公正証書遺言の方式を選ぶ、内容をできるだけ簡潔にする、なぜその分け方にしたのかを付言事項として書き添える。こうした備えがあると、後から効力を争われるリスクを下げることができます。判断能力に不安が出てくる前に着手しておくことが、結局はご家族を守ることにつながります。
八代・熊本での相談実務
遺産分割の話し合いがまとまらない場合、八代市・氷川町・芦北町などにお住まいの方は熊本家庭裁判所八代支部(八代市西松江城町)が調停の管轄になります。調停は月1回程度のペースで期日が入り、解決までに半年から1年以上かかることも珍しくありません。農地や自社株、空き家となった実家が遺産に含まれるケースは八代地域では特に多く、評価や分け方をめぐって争いが長期化しやすい点に注意が必要です。当事務所は八代オフィスを拠点に、必要に応じて連携する税理士・司法書士とともに対応しています。
こんなときは弁護士へご相談ください
- 相続人の間で話がまとまらず、遺産分割協議が止まっている
- 遺言書が出てきたが、内容に納得できない・有効なのか分からない
ご相談の流れは、お電話またはフォームでのお申し込み → 日程調整 → 八代オフィスまたは熊本オフィスでの面談(オンライン相談も可)です。相談料は1時間11,000円(税込)、1時間を超える場合は30分ごとに5,500円(税込)です。受付時間は平日8:50〜17:30(土日祝休)です。
遺産分割・遺言・家族信託については、専門サイト「この街の相続」でもくわしく解説しています。
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本記事は一般的な法律情報の提供を目的としたものであり、個別の事情によって結論は異なります。記載内容は公開日時点の法令・実務運用に基づくもので、特定の結果を保証するものではありません。具体的な対応は弁護士にご相談ください。
執筆・監修:弁護士 西田幸広(弁護士法人Si-Law)
公開日:2026-09-13 / 最終更新日:2026-09-13

